2011年1月 5日 (水)

2010年の読書ノート

2010年に読んだ本の中で特に印象に残った本を10冊選んで紹介します。

なお、このあとの紹介順は、内藤の読書順です。推薦順ではありませんが、2010年は雑誌や月刊誌を除くと約130冊の本を買いましたからお奨めの度合いは強いです。

1 内田和成著『論点思考』  東洋経済新報社 10年2月 1600円

「解くべき問題を定義するプロセスを論点思考と呼」び、「成果を上げるには問題選びが大切」と著者はいいます。「解けない問題にチャレンジするのは無意味」とも。一番の経営資源は人であるし、中でも経営者の思考時間です。経営者が迷いを解いて覚悟を決めることの重要性を再認識できる本です。福祉現場での支援の質の改善を志向するときに最低限身につけておかなければならないポイントはおそらくここにあり、この点に気づかないまま施設・事業所経営を続けると経営の方向性をつかみ損ねることになるでしょう。

2 ウォレスD.ワトルズ著『富を手にする「ただひとつ」の法則』  フォレスト新書 10年2月 800円

この本の原著は1910年に出版された”THE SCIENCE OF GETTING RICH”です。翻訳本は過去にも何度か出版されています。英文の原書もネットで簡単に手に入れられます。「貧困をなくすためには、恵まない人々のことを考える富裕層が増えるのではなく、貧困層の中から必ず豊かになろうと決心する人の数が増すことが、重要」という著者の言葉をそのまま素直に受け取るならば、福祉の現場での私たちの営みを大きく変える契機が生まれるはずです。働くことが世の中の発展に不可欠なことであることを強く認識するならば、就職支援の現場でのスタンスに必ず変化が起こるはずです。中でも一番勇気を感じさせてくれる文が「やりたいことなら、かならずできるはずです。やりたいと思う気持ちは、それができるという証なのです」という部分です。

3 加護野忠男著『経営の精神』  生産性出版 10年3月 1800円

「一定の金利を払って100万円の資本を調達すると、その100万円は100万円以上の働きをすることはないし、それ以下でもない。しかし労働はそうではない。働く人の意欲によって、また協働のさせ方によって労働がもたらす価値は大きく異なる。その意欲を高め価値を高めるのが経営の重要な課題である」から、福祉の現場においても経営の精神こそが中心に置かれるべきなのです。労働の意欲を創造することが経営だからです。よい経営は利益をも求めていないのですが、福祉の現場にいる多くの人にはこのことが実感として理解できてはいないのではないでしょうか。この点についても多くの気づきを得られる本です。

4 山内令子著『健・心・愛 社会福祉ひとすじ40年』  交通新聞社 10年3月 1500円

静岡県の社会福祉法人富岳会の理事長山内令子先生の著作です。私内藤が、個人的に師として仰いでいる山内先生の社会福祉事業に命をかける姿が読み取れる感動の本です。「愛の一円玉募金」の項は涙なくして読めません。私は年に1~2度、富岳会を訪ね、山内先生のお話をお伺いします(半ば強引に時間を割いていただいています)。会う度に山内先生のあっと驚く取り組みに度肝を抜かれます。先生は私より24歳年上ですのに、どこから湧き上がるのかと不思議なほどのバイタリティーがあります。先生がご説明の中でおっしゃった「休んでなんかいられない」という言葉を、私にとっての(いえ福祉現場に働く者全員にとっての)大切なメッセージとして私の勤める施設に掲示しています。

5 ジャック・トラウト他著『リ・ポジショニング戦略』  翔泳社 10年7月 1680円

ジャック・トラウトとアル・ライズは、アメリカ流販売促進の源流とも言える人です。日本の書店のビジネス書コーナーにあるほとんどの販促本は、この人の思想、アイデアが基本にあるといっても過言ではないでしょう。「ポジショニングとは、潜在顧客の脳の中にあるあなた自身のイメージを、ほかし差別化すること」「リ・ポジショニングとは、あなたがあなた自身やライバルに対して抱いている認識を少しずつ改めていくこと」ですが、ぜひ本書に書かれている多くの実例とともに読み込むことをお勧めします。そして『マーケティング22の法則』東急エージェンシー 94年1月 1529円 『ポジショニング戦略[新版]』海と月社 08年4月 1800円 へと読み進めることで、ジャック・トラウトの視点を手にすることができるでしょう。そうすると、施設・事業所で生産、販売している商品を売りたい気持ちが多くのアイデアとともに湧き上がるようになるのです。

6 渋沢栄一著『論語と算盤』  国書刊行会 85年10月 1200円

初版は1916(大正5)年。論語と算盤とは、経済と道徳という意味です。維新後の富国強兵の国作りにおいて産業振興が欠かせないと判断して、大蔵大臣の就任要請を断ってでも民間企業の育成に心血を注いだ渋沢栄一の講演録です。私が、日本近代化の父とも言われる渋沢のこの著書に着目したのは、福祉施設・事業所での商売が奏功しないのは、事業者側の心の中に「金儲けは道徳や正義に反する」という考えが澱のように拭い去れないからではないかと考えたからです。明治維新と同じような規模の大変革がまもなく世の中に到来します(それが2015年頃と言われています)。渋沢が生き抜いた時代と同じ風が今吹いているならば、渋沢の言葉に耳に傾けことが、暗夜を照らす松明になるはずです。渡部昇一著『渋沢栄一『論語と算盤』が教える人生繁栄の道』致知出版社 09年3月 1500円 は前掲書のエッセンスをとても分かりやすく伝えてくれます。

7 マイケル・サンデル著『これから「正義」の話をしよう』  早川書房 10年5月 2300円

原書名は”JUSTICE What’s the Right Thing to Do?”。同書第7章は「アファーマティブ・アクションをめぐる論争」で、積極的差別是正措置に関する法廷論争などが採り上げられている。障害者権利条約の批准に向けての国内法整備の過程でもアファーマティブ・アクションのあり方が議論されることになる以上、福祉業界に身を置く者にとっては基礎知識として手にすべき情報となります。もちろんこの論点だけでなく、福祉の現場においても支援者としての立ち位置を確認するために考えるべきことがいくつか書かれています。

8 矢島茂人著『会社は「環境整備」で9割変わる!』  あさ出版 10年1月 1500円

日本経営品質賞を2度受賞した株式会社武蔵野の常務取締役の矢島氏が「経営の原理原則は、強い企業文化と社風をつくることから、すべてが始まること」「そして、その手段は「環境整備」である」と主張しています。9つの原理原則(詳細は本書をお読みください)を知ることで、環境整備が実効性を持つ、といいます。「変化は人間の本能に背く行為ですから、何も目的がなくて実行できるはずは」ないという言葉、「現状で部下が思うように育たないのであれば、まずリーダー自身が変わることから始めるのです。変化したあなたを見て、あなたの教えに気づいたとき、部下も変わります。これが「育った」ということです」という言葉には、強いショックを受けます。福祉施設にあってはとりもなおさず施設長の変化が大切なのですが、どのようにすれば変われるのかが明確に示されています。

9 稲垣篤子著『1坪の奇跡』  ダイヤモンド社 10月12月 1429円

1932年生まれで、125歳まで(ということは2057年まで)現役をめざしている稲垣さんは、東京都の吉祥寺で1坪の「小ざさ(おざさ)」で羊羹ともなかの2品だけで年商3億を上げている会社の社長です。そして製品の製造者でもあります。稲垣さんの心がその父、伊神照男さんからどのように引き継がれたのかを垣間見ることができる本です。教育という一言で済ましてしまうには余りに大きな「継承」を、いったい自分は次世代に同じようにできるのか、と忸怩たる思いになります。小ざさは障害者雇用をしていますが、そのきっかけが日本理化学工業の姿と重なります。味は文化で作る、を実践していることは、坂本光司著『ちっちゃいけど、世界一誇りにしたい会社』ダイヤモンド社 10年3月 1429円 でも採り上げられています。

10 羽生善治著『結果を出し続けるために』   日本実業出版社 10年12月 1200円

70年生まれのプロ棋士。15歳の中学生でプロデビューしてからの快進撃は周知の事実。その羽生善治がツキや運、プレッシャー、ミスをどう受けとめ、結果を出し続けるかを語った本です。私が勤める施設は知的障害のある人を対象として就職支援をしていますが、障害者支援施設の職員もまたその道のプロでなくてはなりません。そのプロとしての心構えは、あらゆるその道の達人から学ばなければなりません。プロ棋士の羽生善治から、知的障害のある人への支援に携わる心構えをどう学び取るか、がこの本から強く受けるメッセージなのです。羽生善治が直接語る言葉から、このことを読み取るのは実は難しくありません。一芸を極めた者の言葉には必ず優しさが寄り添っているからです。

11 神田昌典・渡部昇一著『父から子に語る日本人の成功法則』   李白社 10年12月 1500円

日本人として、世界を視野に入れてどのように仕事をすべきか。私たちは福祉の現場で障害のある方への支援を仕事としていますが、その仕事は、これから30年後、50年後の世の中を生きる現在の子どもたちにとってもなくてはならない仕事となっているのか、を考えさせられる本です。私たちは、過去に生きた日本人が将来の(つまり今を生きる)私たちに何を託そうとしたのか、その期待に十分に応える生き方をしているでしょうか。私たちが現代の福祉の現場で展開している仕事は、過去の日本人の生き様に導かれているはずです。同様に将来の福祉現場で働く人たちには、私たちの生き様が映し出されるのです。このように考えるならば、一時たりとも無駄な時間を過ごすわけにはいきません。

12 イソムラアユム著『感じるプレゼン』   UDジャパン 06年12月 1500円

この本は、船井総合研究所の石田和之さんが主宰する「働く幸せプロジェクト」の勉強会で、東京都港区にあるUDジャパンさんにお邪魔したときに、出会った本です。UDジャパンさんは障害のある方との理解の促進にさまざまに取り組まれている企業です。この本では、障害のある方(視覚障害、聴覚障害)向け、また年代や立場の異なる方向けのプレゼンテーションをスライドなどを活用して行うときに、どうすればよいのかを分かりやすく説明しています。いわばコミュニケーションの底力を身につけるための必携書です。

10冊ということでまとめましたが、12冊になってしまいました。いずれも比較的安価に手に入れられるものです。ぜひお読みになることをお奨めします。

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2007年3月 5日 (月)

子どもたちは、ダメージを受けないために、被害者にならないために、ウィルスに感染して加害者になってゆくのだ

『いじめは心の疫病である。大人の見えないところで子どもたちの間に伝染していくウィルスである。(略)ウィルスに侵されていない人間だけがダメージを受ける(略)。ダメージを受けないためには感染しなくてはならない。だから子どもたちは、ダメージを受けないために、被害者にならないために、ウィルスに感染して加害者となってゆくのだ。』(山脇由貴子『教室の悪魔 見えない「いじめ」を解決するために』ポプラ社 2006年12月 p100)

東京都児童相談センター心理司の著者のいじめに関する洞察は、現場職員ならではの慧眼を感じる。教室の中にいじめの「傍観者」がいないという構造の指摘には度肝を抜かれた。

いじめの解決と、管理者としての学校への責任追及を分けて考えるべきという提言も、実際の現場においてはとても有効な指針だと感じた。

現代の教室で起こっているいじめの実態をかいま見ることで、皮相なマスコミ報道に容易に気づくことができるようになる。いじめや自殺などの新聞報道を鵜呑みにしてはならないことにも気づける。

教室のたったひとりの被害者の他は、全員加害者という見方は、改めて加害者や加害者の家族の責任追及だけではいじめ解決につながらないことを認識した。

学校は、加害者がいじめという行為にしか自分の創造性を発揮していない事実を認めて、授業をはじめとする学校生活のさまざまな場面で子どもたちの創造性を発揮させる工夫に今まで以上に取り組むことを期待したい。

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2006年8月12日 (土)

世の中の全員が賛成してくれることはありません。たとえそれが正義のため安全のためであろうと、必ず自分の都合だけで文句を言う人は出てきます

 坂井優基『パイロットが空から学んだ危機管理術』インデックス・コミュニケーションズ、2006年5月、p52 このタイトルのことばに続けて「世の中すべての人に、いい顔はできません。安全のためであれば駄目は駄目と、きっぱりとすることが大切です。」と続く。

 ひとは、とかく八方美人になりがちである。他人から非難されるよりはプラスの承認を受けたいと考えるので、当然である。

 ルールさえコントロールできる立場であれば、なおさら、自分の都合を主張する。遠慮がちを装いながら、思いを通そうとする人もいる。

 今日8月12日は、85年にJAL機墜落事故が発生した日であり、私はとくに安全について考えなければならない日と決めている。

 安全のために「2つ以上いいことは同居しない」と主張する著者からは、安全確保の現場にいてこそ実感してきた「安全確保のほんとうの難しさ」が伝わってくる。

 安全はすべてに優先する、ともよく言われる。安全を確保する意識のない者はリーダーシップを取るべきでない、という意味を読み取らなくてはならない。

 「緊急時の訓練は、実際に近いことをやって不具合点を洗い出すために行うべきです。この訓練がうまくいかなければうまくいかないほど、実際の緊急事態にはうまく対処できるようになります。」(前掲書 p158) 避難訓練などに対する心構えを180度変えるような至言である。避難訓練は、いざというときに役立つよう「うまくいくように」行おうとする。それを逆転して、うまくいかない不具合点を洗い出すために、うまくいかないほうがよい、とする著者の着眼は重要である。

 不具合点を洗い出すのが緊急訓練の目的である、との明確な位置づけは安全確保のために不可欠なことである。

 危機や災害に備えること、必要な準備すること、これらのことに真剣に取り組んだ者だけに、神様は安全というプレゼントを授けるのである。

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2006年5月26日 (金)

パイロットは優秀な技量を持たなければなりませんが、その技量を発揮しなければいけない状況に自分を置いてはいけません

 坂井優基『パイロットが空から学んだ一番大切なこと』インデックス・コミュニケーション、2005年5月、p182 パイロットが飛行機の操縦席に座ったときにはその仕事の9割が終わっていなければいけない、という著者は、こ「の本の巻頭で、世界で初めて無着陸世界一周飛行を行ったパイロット、ディック・ルータンの「優秀なパイロットとはその優秀な操縦技量を使わなくてもすむような、優秀な判断力を持ったパイロットである」という至言を引用もしている。

 機長の仕事で一番大切なことは「飛ばないという決断」とともに「説明責任」の必要性にもふれている。

 責任がある以上、当然の権利・権限はある。しかしその権利・権限の行使にあたっては説明責任が求められるということである。説明できない権限行使は「ひとりよがり」になる。

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2006年4月17日 (月)

飛行機の操縦が下手なパイロットは、自動操縦装置の操作も下手なのである

『機長が語るヒューマン・エラーの真実』杉江弘著、ソフトバンク新書、2006年3月。P103。過剰な自動操縦システムの設計思想を批判するくだりのなかに出てくる。「技量が多少劣るパイロットでも自動操縦装置があれば安全に飛行機を飛ばせられると考える」のは「とんでもない間違い」なのだそうだ。「自動操縦装置を使いこなす技量は、手動操縦の技量に正比例し」「フライトのイメージがしっかりとできていて計画どおりに使わないと機は安定」しないという。

 パイロットの負担を軽減させるのがオートパイロットの目的なのだが、そのオートパイロットを自在に操る技量は手動操縦の技量と同じ、というところに感銘を受けた。

 これは車を運転する技量を考えるとき、車は人間の移動の負担を軽減させるものである、とするならば「歩くこと」、厳密にいえば「交通ルールに従って歩行する技量」に正比例することになる。上手に歩ける人は車の運転も上手であり、危険な運転をする人かどうかは歩き方でわかるということになる。

 また、文書作成の技量を考えるとき、ワープロは文書作成・推敲・清書の負担を軽減させるものであると考えるならば、「手書き」技量に正比例することになる。上手に手書きできる人はワープロの使っての文書作成も上手であり、読みにくいワープロ文書を作成する人かどうかは手書きの文書をみればわかるということになる。

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