2006年12月13日 (水)

自分の人生の中で一番輝いていたとき

10日快晴の朝、さいたま市へ授産振興セミナーの講師として呼ばれていってきました。

休みの日を返上して、自分でお金を出して研修する人を前にして、ほんとうに頭が下がりました。

授産事業は施設の中で障害者の人々に働く場とチャンスを提供して、かつ給料(工賃)を支払っていく事業です。

その事業を活性化していく模索をし続ける受講者の皆さんの顔の中にはいろいろな表情が見て取れました。

その皆さんに向けて、売るための行動と商品の品質を高める行動とは別物として考えるべきではないかという示唆をいたしました。

自主製品(自施設で製造・生産できるオリジナル製品や商品)がないと悩まれる方がいる一方で、施設にある製造・生産設備が手かせ足かせになっていると悩まれる方もいるのです。

何を作るか、という悩みを越えて「どう売ろうか」という段階にたどり着くのは実は容易なことではありません。販売は商品そのものが持つ魅力(商品力)で決まるものと考えがちだからです。

さて、このような授産事業が福祉の現場で展開されているときに、もう一つ大きな難しさがあります。それは「販売」「製造・生産」という行為と「支援」という行為をどのようにバランスをとるかということです。

結論から言うと、このことのバランスをとる、ということに悩んでいるということは、両方ともうまくいっていません。たいていは、両方うまくいくか、両方ともダメかです。支援が天下一品なのに販売がまるっきりダメなんてことはありません。逆に販売力がないような施設は残念ながら支援もよい結果が出ていないのです。

このあたりの目標設定にはトップの意識が強く問われるところです。

「顧客満足」は当然のことであってサービスのスタート地点です。顧客が不満を抱いている状態を「サービス」とはいいません。「顧客が満足すること」を超えたところにあるものを目指さないと、結果として顧客満足というスタートラインに立つことはできないのです。

障害者が「この施設で過ごしていたときが自分の人生の中で一番輝いていたときでした」といつか語ってくれるような施設サービスを提供することが私の夢です。

受講者の皆さんのなかからもこのようなサービスを展開される方が多く生まれることを祈りながら会場を後にしました。

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2006年7月30日 (日)

自立支援法に対応する力

 『予測不能な世界に対処する一つの方法は、あなたの組織内に考えうる限りの柔軟性を植え込んでおくことである。』(アル・ライズほか『マーケティング22の法則』東急エージェンシー、1994,1 p179)という一言が力を与えてくれます。

 自立支援法が4月1日に施行されてから、今後への不安が大きくなりました。報酬の日割制により収入が減少する、いやそれ以上に収入が不確定になります。10月以降の新事業への移行について検討してみても、いままでの報酬額や人員配置などの基準が大きく変更され、安心して移れそうにないのです。報酬とも関わりますが障害者の障害程度区分判定の仕組みがとくに知的障害者にとっては不充分・不親切です。これらのことが今後改善されるのかどうかの見通しさえ立っていないのです。

 千葉県我孫子市が、この障害程度区分判定に関して独自の基準を設けて、知的障害者・精神障害者の実態と判定結果の乖離に修正を加える動きを見せています。詳細な内容は検証していませんが、大いに評価すべきは「障害者の福祉サービスの利用希望」が障害判定結果に反映される点です。

 変化へのどこよりも早い対応が必要。このようなアドバイスを上記書籍から見つけたのです。また『そもそも会社というものは、新しいアイデアをもって自らに刃を向けるほどの柔軟性を備えていなければだめである』(前掲書 p181)そうです。

 自らに刃を向けるほどの柔軟性。

 しかしこの柔軟性は血を出すための柔軟性ではありません。予測不能な未来に対処するための柔軟性です。

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2006年5月10日 (水)

「作業」の中にある何か

私の勤める知的障害者施設の近くにある養護学校の先生とお話をしたときのこと。勉強になかなか集中できない障害者の方が、何か作業となると1時間ぐらい集中できることがあるそうです。先生もその集中度合いに惹かれるようで、作業が好きとおっしゃっていました。

作業に中になにか集中されるものが潜んでいるようです。

勉強にも「幅」があると思います。人間誰でも好きな勉強と嫌いな勉強があって、好きな勉強とは、勉強のもつ「幅」のなかにあって、なにか自分にきらっと(あるいはビビッと)呼応するものなのでしょう。

でも勉強の幅はきっとあまり広くなく、ひとによっては自分に呼応する部分を見つけられません。その人は勉強がずっと好きでなくなります。

一方、作業はといえば勉強よりはるかに「幅」が広いので多く人は自分に呼応する部分を見つける可能性が大きくなります。

勉強の幅を大きくできる先生は、きっとよく分かる先生、好きな先生……と言われるようになるでしょう。

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2006年2月23日 (木)

高くても買いたいもの

障害者自立支援法が4月から施行されるにあたり、報酬単価や設置基準や人員配置基準などが少しずつ明らかになりつつあります。この法律では利用者負担(定率負担・1割負担)が規定されているので4月からの具体的な負担額の算定手続きの準備が始まっています。正式な厚生労働省からの通知は3月初めに予定されている全国主幹課長会議を経てなされます。この時期は事業者団体とのヒヤリング等が行われ、報酬額や加算制度などをめぐり議論がなされています。

 支援費制度においても利用者負担はありましたが、利用者や保護者の所得に応じて負担額が決まっていたため、サービス量や障害程度区分(支援費単価の根拠となります)により負担額が変わるということはなかったのです。だから必要に応じて(一定の金銭負担は生じますが)サービスを受けられましたし、事業者としてもサービスを受けることを勧めることができました。

 ところが自立支援法においては、サービスを受ければ受けるほど負担が増します。月額上限額が定められてはいますが、このアッパーリミットにかからない方にとっては、サービス量やその金額が増えれば増えるほど負担が増す、という感覚はぬぐえません。アッパーリミットに達しない方の法が多いようですから、なおさらです。

 このことは事業者と顧客(サービスを利用する障害者)の利害関係を生じさせることとなります。障害者自立支援法がもつ「とても困ったしくみ」といえるでしょう。

 支援費制度においては、障害者の方に対して、必要な支援は遠慮なく受けてください(それによって負担が変わることはないのですから)と言えましたが、今後はこうは言えないようです。

 障害者ご本人、ご家族にとっても金銭負担を考慮してサービスを受けること(サービス購入)を控えようとする場面が増えることになるでしょう。

 事業者にとって4月からの報酬単価は従来に水準より下がることは経営上苦しくなるので、いろいろな手だてで報酬単価水準を維持したいと願うところですが、お客様にとっては、報酬単価(すなわち利用料金)は安いにこしたことはないのです。

 だから事業者にとって必要なことは、「たとえ高くても欲しい」とお客様が思うようなサービスを提供することとなります。現場で提供している「サービス」そのものの付加価値を高めるには何が必要か、という観点での取り組みが急務です。

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2006年1月 4日 (水)

友だちだから

 いよいよ新しい年のスタートです。私の勤務する知的障害者施設では、年末年始に帰省されていた方が今日施設に帰ってこられました。お昼ごはんの時に私の前に座った方に「お正月は何をして過ごしましたか」と聞いてみました。

 「友だちいないから」とさびしそうにこたえました。「ゲームセンターとかで遊ばなかったの?」と私。「友だちいないから……」「今までは友だちと遊んでいたの?」

 「友だちが障害者とはあまりつきあいたくない、と言ったんだ」と唇をふるわせながらその方が話しました。「友だちが、障害者と健常者とでは、障害者とつきあいたくないと言ったんだ」「携帯のメールでも同じことを言われた……」と小さな声で話してくれました。

 「どんな気持ちだった?」と私。「殴ってやりたいと思った。でもそんなことしたら、本当に友だちでなくなっちゃうよ。我慢した。」

 「よく我慢できたね」と私。

 「だって友だちだから……」

 一人ひとりにそれぞれお正月の出来事はあったのでしょうが、その方にとって今年のお正月はこうだったんですね。友だちをこれほど大切に思える方に出会えて、私の今年のお正月はうれしくもあり……悲しくもあり……

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2005年12月15日 (木)

自分だけを見て!

 人と会ったときに挨拶をしますね。「おはようございます」「こんにちは」「お世話になります」「さようなら」……。もちろん笑顔で、明るい表情で、張りのある声で、よい姿勢でできたらほんとうに「よい挨拶」になりますね。

 でももっとよい挨拶は「おはようございます」のまえに「○○さん、おはようございます」というように目の前にいる方のお名前をつけるのがよいのです。なぜでしょうか。考えてみてください。

 私の勤務する施設の顧客の皆様は元気がよくて礼儀正しい方が多く、(残念ながら私をはじめ職員が丁寧に教えたわけではないのに)毎朝丁寧にご挨拶してくださいます。なかでも『施設長先生!おはようございます!』という方の笑顔が本当にすがすがしくて心地よく感じます。

 挨拶の前にその方の名前を付けるということは「その方だけを見ているよ」という気持ちの表れです。目の前に大勢の方がいると、つい「おはようございます」と全員に向けて一回で済ましてしまうような挨拶をしてしまいがちです。

 ところが、挨拶の前に名前を付けてしよう、と思うと自然に一人ひとりに目が向くのです。挨拶された人もそのことはきっと感じます。(私もそうですから)

 自分だけを見て! と言外に訴える行動を取る方がよく見受けられますが、挨拶の前に名前を付けるということで、あなただけを見ています、というこちらの気持ちが自然に相手に伝わるのではないかと思います。

 明日の朝から試してみてください。

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2005年12月 3日 (土)

みんな幸せになれますように

 しばらく前のことになりますが、忘れられない出来事をお知らせします。私が勤務する施設では知的障害者の方への入所支援サービス、通所支援サービスを提供していますが、お客様は年末年始、お盆のときなどは帰省されます。今年のお正月休み明けに、各地から施設に帰ってきます。お昼の食事の時に施設の理事長先生が、ある女性のお客様に「初詣に行きましたか」と訊ねたのです。「行きました!」と元気にその方は応えました。「神様にどんなことをお願いしたの?」と理事長先生。その答えは何だったと思いますか。「去年(2004年)は災害が多かった(津波や地震の被害が甚大でした)から、今年はみんな幸せになれますようにって……」

 この答えをそばで聞いていた私も、理事長先生も絶句でした。そうですよね、だって初詣のお参りでは普通、今年一年の「自分や自分の家族」の健康や繁栄をお願いするじゃないですか。それがさりげなく「みんなのこと」をお願いしたと聞いて、年初にとてもいいことがあったなと感じました。

 師走に入り今年ももう少しです。年明けにまた、かの女性に「今年は何をお願いしたの」って伺ってみたいと思います。

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2005年11月25日 (金)

障害者自立支援法対策チーム発足

 本日、私の勤務する施設では(遅ればせながら)「障害者自立支援法対策チーム」が発足し、第1回会議を開催しました。自立支援法が成立する以前から「入所授産施設」が一番大きな影響を受けるといわれていましたから、はやくその対応に向けてとりくむ必要は感じていましたので、ようやく発足し、ちょっとだけ(ほんとうにちょっとだけ)ほっとしています。
 今日の会議では、いろいろな情報の整理として、障害者本人負担の内容とか、新事業体系のこと、報酬単価や職員の人員配置基準に関する情報について確認しました。
 
 また私の施設は「全国社会就労センター協議会」に加入しているので「セルプ通信速報」が入手できますから、その資料を基に情報交換しました。
 現在の情報を見る限りでは、新しい法制度の下で「今まで同じことをし続けること」は本当に難しいようです。
 顧客満足(CS)を高めることが組織としての使命でありますが、その前提として従業員満足(ES)の追求があります。
 新しい法制度の下での対応については、この「CSのためのESの追求」を見失わずにすすめたいと思います。
 新しい「対策チーム」にはこのことをお願いしました。
 さて昨11月24日に、セルプ協制度・政策・予算対策委員会会議が開催されました。午後の「新施設・事業体系移行モデル小委員会」のなかで、新施設・事業体系移行のフローチャートとその際の検討ポイントのリストなどを検討しました。この内容は、12月6~7日に開催される「障害者自立支援法の施行に向けた実践研修会」のなかの「移行手順等の基本的考え方」という講座で示される予定です。
 また今後11月28日に「新しい障害福祉サービスを考える会」開催12月5日に社保審障害者部会の開催が予定されています。なお11月11日に開催された障害福祉主管課長会議についてはセルプ通信速報67号でもふれられていますが全文を参照されたい方は、下記サイトでダウンロードできます。

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2005年11月16日 (水)

ISO9001更新審査終わる

 私の勤める知的障害者施設は、2002年12月にISO9001:2000の認証登録を受けました。3年前は「措置から契約へ」という流れで支援費制度の導入を間近に控え、福祉施設にとって大きな時代の変化が来ると言われていました。知的障害者施設にとって顧客(地域の障害者の方、そのご家族の方)に選ばれるためには、組織をどのようにすればよいか暗中模索をしていたのです。

 2000年に戦後社会福祉事業、社会福祉法人、福祉事務所などに関する枠組みを規定していた社会福祉事業法が「社会福祉法」に改正され、個人の自立支援、利用者による選択の尊重、サービスの効率化などを柱とした新しい社会福祉の方向性が示され、2003年4月からは「支援費制度」への移行が決まり、そのために日夜取り組んでいた頃でした。社会福祉法には顧客による選択を保証するシステムとして、苦情解決とサービスの第三者評価が盛り込まれていましたが、後者は努力目標に過ぎませんでした。

 ここに目をつけました。サービスの第三者評価を何とか活用できる方法はないかと。ここでたどり着いたのが「ISO」だったのです。認証取得するからには一気呵成に取り組もうということで、2002年6月から始めてその年の12月に取得しました。

 ISOに関しては、さまざまな評価があります。とくに福祉サービス事業においては、維持にかかるコストと見合うだけの効果があるかとの疑問がきかれることがあります。しかしISOは自施設の提供するサービスを改善し続けるための「ツール」です。ツールですから、使い方次第です。使い方の巧拙とツールの善し悪しの評価を混同しないことが大切だと思います。

 こうして3年が経ちました。この間、半年ごとに定期審査を受け続けました。内部監査でもQMS(品質マネジメントシステム)がうまくいっていないところがたくさん出続けました。歩みは遅々としていますが改善し続ける「姿勢」が身についてきた実感はあります。

 今月14日から16日まで3日間の更新審査があり、本日終了しました。改善指摘事項はなく、無事更新できることになりました。とはいえ、審査を通じて今後改善をしていくべきポイントはたくさん見つかりました。

 このポイントを大切に受け止め、改善し続けたいと思います。改善すべき点をなくすのが目的ではなく、改善し続ける姿勢を維持することこそが、組織に必要なことであると思っています。

 しかし、ISO9001の認証取得を通じて、大きく変わってきたのは実は「組織」ではなく、「人」でした。このことはまた書きます。

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2005年11月10日 (木)

妹がよくなって

知的障害の姉妹におこったこと。姉は私の勤務する施設の顧客でした。妹は重度の身体・知的障害でしたが、あるとき精神科医の診察により行動障害の原因に「幻聴」があることに気づき向精神薬を投与したところ、とてもよく改善がみられたとのこと。表情が明るくなりお話も多く出るようになりました。ご家族はとても安心しました。そして姉に「妹もこんなによくなったのだから、お姉ちゃんも頑張ろうね」って励ましました。しばらくすると姉の生活が大きく変わっていったのでした。(つづく)

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